ああ貴方が果たして何とおっしゃるのかは判りませんが。綺羅綺羅とさんざめく光は私の瞳を灼くのです。燃えるような紅も幽谷の緑も深く沈む蒼も照明を浴びて乱反射しては私の脳内にねじ込んでくるのです。聞き飽きて諳んじてしまえるようになった台詞とともに。まあ素晴らしい。何て美しい色合いでしょう。まるで姫様の為に仕立てられたようですわ!鏡の中には手をたたいて誉めそやす侍女たちに囲まれ今日届けられたばかりの着物を纏った私が立ち尽くしています。その顔は自身でも気味悪いほど青白いのですが、奇妙なことに周りの者は誰一人気にならないようなのです。本当にあのお方は姫様にお似合いのものをよくご存知でいらっしゃるのですわ。ええそうですとも。嬉しそうに確認しあう声を聞いて私は不思議に思います。送り主の方と私は今まで一度もお会いしたことがありません。写真を拝見したことはありますが、礼服を着て畏まったその姿から私は笑ったお顔を想像することができませんでした。だからどんなものが似合うかなんて考えもつきません。向こうの方は違うのでしょうか。それとも私が駄目なのでしょうか。私にはよく判りませんでした。肌触りの良い絹が何重にも織られた着物が絢爛豪華に輝くのに比べてそこから覗く首は酷く細く白くまるで頼りなく、じわりじわりと巻きつかれているようです。そんな筈はないと鏡の中の自分を見つめるのですがほらまた、綺羅綺羅とした紅が輝きます。侍女たちは一層華やいだ声で何やらまくしたてています。美しいものを身に纏うということはとても息苦しいのです。私は耐え切れずに瞳を閉じました。そうすると緩やかに夜が訪れます。私だけの闇が視界を覆います。貴方の色が。

「顔色が優れないようですが」

声を掛けてからしまったと思った。閉じていた瞼を上げゆるゆるとこちらに視線を向けた少女はもう微笑んでいる。数瞬前まで憂えたように伏せられていた黒い瞳は何食わぬ風に長い睫に縁取られて揺らぎもしない。ご心配には及びません、少し考え事をしていただけですから――。小さな紅い唇はそうゆっくりと、聞き逃すことを許さない速度で紡ぐと結ばれる。そうして背筋を伸ばして前を向く。正面の遥か先に焦がれて已まない何かがある訳でもないのに。またしても禁句を言ってしまったのだった。この高貴な少女が気遣いなど欲していないのは十分にわかっていたというのに。誰かから理解されることなど望んでいないのだ。ただこの国の象徴として自らを規定しているその姿。煌びやかな紅の着物を召した今日は一層彼女の肌を血が通っているのか不安になるくらい白く浮かび上がらせている。あるいは通っていないのかもしれないと本気で少し思う。神話に登場するような人間と似て非なる存在なような気がしてくる。彼女を前に馬鹿げたことを考えるなと言われれば是非もないが、しかし手の届かないということに関しては変わらない。凛としたうつくしい偶像。近くに居るのに触れられない。微動だにしない小さな横顔を焼き付けるようにそっと目を瞑った。闇は昇華せず網膜には燃えるような紅の色だけが幽かに残っている。









******瞼の下、
内なる


















+リク15の土そよ。ユリさまが姫と侍をご所望だったので正統派で行こうとしたらこんな感じに。あれ?土そよというより土方→←そよなのは両片思いがだいすきだからです。こうね、無駄にいちゃついてるより傍にいるのに触れられないほうが燃える(萌えるじゃなく)じゃないか!という信念をこめてみましたよ!返品・苦情・書き直しは随時受け付けておりますのでユリさま!素敵リクありがとうございました!こんなブツでよろしければご自由にお取り扱いください。これからもひとつよろしくお願いします!


































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